あなたは、印刷業の今後をどう考えているでしょうか?
インターネットとデジタル化の波により、印刷物のシェアは縮小すると言われています。そんな中で、印刷会社はどんな生き残り戦略を立てるのか?
「脱!印刷」を掲げて、新たな成長分野を模索する企業、
クロスメディアを掲げて、制作メディアの多様化に進む企業もあります。
しかし、ほとんどの場合、成功しているとは言い難い状況です。この記事では、印刷会社が今後、どのように生き残りをかければいいのかを、印刷業に精通したコンサルタントの立場から解説します。
印刷会社の繁栄は、印刷物の価値を上げることです。
目次
印刷市場の予測
工業統計による印刷産業の出荷高は、2004年には7兆2127億円、2014年には5兆5364億円となり10年間で1兆7千億円の減少となりました。今後、デジタル化、高機能化、ソリューション&アウトソーシング分野への参入、さらにはビジネスモデルの進化等、印刷産業の高度化が進むものと考えられます。
日本印刷産業連合会の予測によると、2015年から2020年にかけて-1.5%となっています。この予測が正しいとすると、緩やかなダウンになるものの、概ね現状維持ができると考えられます。
参考サイト
https://www.jfpi.or.jp/topics_detail6/
2019年は元号が変わるので、年号に由来する印刷物は特需もあります。印刷業界の今後を考えると、決して明るいとは言えませんが、絶望的に暗くもありません。
言えることは、緩やかな下降線を描く業種においてどのような経営を目指すのかを考える必要はあるとうことです。
印刷会社の経営の方向性
印刷会社に経営においては、3つの方向性が考えられます。
1:基本的に現状のまま変化しない
市場が縮小する業種において現状時期をすることはマイナスに取られがちですが、そんなことはありません。印刷の市場がなくならない以上、受注競争に勝ち残れば売上の拡大は可能です。事実、ネット印刷の多くは、小口の印刷需要の掘り起こしをすることで売上を拡大しています。
・圧倒的低価格に対応
・お客が集まるインバウンドマーケティング
・他社から仕事を奪う営業力
・新たな印刷ニーズを掘り起こす提案力
という戦略の構築で十分に勝ち残ることはできます。
2:デジタル化などサービス範囲を拡大する
紙からデジタル分野にサービス範囲を広げることで、受注範囲を拡大し、売上アップも可能です。ただし、外注依存のサービス拡大は自社のノウハウを蓄積できないので経営資源となりません。自社にあるリソースの活用範囲を広げるか、M &Aを検討する方がよいと考えられます。
3:印刷業から業種転換をする
印刷業からの方針転換を検討するということです。経営の方向性としてはよく考えられている点ですが、かなり成功の確率が低いと言えます。おすすめしない方向性です。
クライアント先と営業スタイルで撃沈もあり得る印刷会社
印刷業界は、緩やかな下降なので、今日や明日に慌てて何かをする必要はありません。しかし、5年度、10年後の会社の姿をイメージして、動いておく必要があります。
ただし、印刷会社の受注形態によっては、撃沈もあり得ます。
<危ない印刷会社>
突然の売上ダウンにつながりかねない会社もあります。
1:売上の大半を数社に依存している
売上の大半を特定に会社が占めている場合、その会社がデジタル化に移行した場合、仕事が激減します。契約書類、事務伝票、有価証券などはデジタル化の方向が避けられません。こうした印刷物をメインにしている会社はリスクに備える必要があります。
2:下請け専門
下請けをしている会社は、今後どんどんコストダウンの要請が強まります。コスト削減策に追われることになります。
3:長い付き合いで持っている
大手との付き合いが「長い」という理由で受注をしている会社も、クライアントの方針転換により、仕事が外に行ってしまうことがあります。「付き合いが長いからよく理解してくれている」と思われているうちに、データの蓄積をしておく必要があります。
4:小口の印刷物を営業マンが手配している会社
名刺からパンフレットまで営業マンが対応している会社はコストダウンができません。また、厳しい仕事を依頼されれば、断れないので、生産スケジュールが乱れがちです。今後、ネット印刷のサービスが向上すると、圧倒的な価格の違いで仕事を奪われる可能性があります。
<比較的安定した印刷会社>
次の要件に当てはまる場合は、比較的安定していると考えられます。ただし、拡大を目指すなら、新しい施策が必要です。
1:仕事の取られにくさ
大手との取引があり、長い付き合い+αで、仕事が他社に行かない理由を持っているなら、今後も大きな落ち込みの可能性は低いと言えます。
2:新規開拓の習慣化
繁忙期でも閑散期もで、新規開拓をする文化のある会社は、仕事が入ってくるので、大口を獲得できれば安定します。ポイントは、常に誰かが新規開拓をしていることです。
3:独自の知識とスキル
医薬品の印刷、専門書、専門ソフトの変換など、他社が取り組みにくい分野の印刷をしている会社も安定性が高いと言えます。歌舞伎に精通した会社では、番付のルールや宣伝物の役者の配置などの知識があるため、印刷自体はどこでもできますが、仕事が他社に行かず、高い利益率で受注ができています。
印刷業界の課題
ここからは印刷会社の抱える課題について考えます。
1:設備の老朽化
印刷会社のような設備産業では、機械の老朽化により、生産性が落ちること、故障によるメンテナンス費の増加、スケジューリングが狂います。しかし、設備を導入しても、採算性を取ることができない場合もあります。
2:社員の高齢化
社員が高齢化し、若手社員の採用をしていない場合、会社としてのパワーがなくなります。営業マンの新規採用だけで工場が高齢化している場合は、営業部と工場の軋轢を生みます。
3:営業マンの提案力不足
御用聞きのように訪問して、注文が出た印刷物を手配するだけ。紙や加工のことには詳しくても、それ以外の提案ができない営業マンは、対応力だけでお客さんに頼られているので、新しい仕事を獲得することができません。
4:創造性のある社員の不足
依頼されたものを印刷する受注産業の形態に慣れてしまうと、自社商品の開発ができません。また、作業者だけの会社では、仕事をこなすことに精一杯で将来のことを考える創造的な社員が生まれません。
失敗しやすい印刷会社の取り組み
印刷の市場は小さくなるので、新しいことをやろうとする場合、「脱印刷」を掲げることがあります。特に、情報収集をしている幹部社員は、他業種の成功事例を入手し、これからは「脱印刷」だと言いますが、多くは自社の実態にあっていません。
社長が実態に即した経営をしている場合、「社長の考えは古く、自分の考えが先進的だ」という勘違いをして、社長を批判することもあります。
「印刷物ではない何か」を探し始めた場合、たいていの印刷会社は業績を落とします。
印刷以外の市場を探した場合、
・現在の社員の活躍の場は?
・誰がその事業の責任者になるのか?
・今の売上を補完する規模になるか?
この3つの疑問に明確な答えが出せないようなら、絵に描いた餅でしかありません。
あくまで、自社のコア技術を基にして、事業の拡大をすることをおすすめします。
印刷の周辺で成功している事例
それでも、印刷から事業範囲を拡大して成功している会社もあります。ここでは、
説明書・マニュアル作成の専門知識を持ち、IT分野と融合させることで、独自性のあるサービスを展開しています。制作経験者だけでなく、整備資格の保有者を採用しているため、専門性の高い会社になっています。
2:凸版印刷(電子チラシ)
折込チラシの需要が落ち込む中、凸版印刷のシュフーが高い評価を受けています。このサイトは、折込チラシを電子化し、誰でも無料で見ることができます。新聞未購読層にもリーチできるサイトとなっています。
ただし、このサイトは折込チラシを否定しているのではないと思われます。
会員の情報をGPSで取得すれば商圏の特定でき、今後レジとスマートフォンとの連携で購入品目もわかれば、逆算して売れるチラシが作成できます。
また、地方のスーパーにシュフーを解放することで、営業マンの担当できない地域のスーパーにもメールを使って営業活動ができます。
これは私の推測ですが、シュフーは究極のチラシ作成データ蓄積システムではないかと思います。
本が売れなくなったと言われている出版業界で、ビジネス書の会員制直販というビジネスモデルで成長しています。書店を通さない流通は革命的です。
会員の数だけ確実に売れるため、在校のリスクがなく、売上の予想もできます。
初回お試し
定期購読
年間一括払い
というビジネスモデルも出版業界では他に例がありません。
ただし、このビジネスモデルは、通信販売では一般的です。通信販売の仕組みを出版に持ち込んでいるダイレクト出版のように、他業界のビジネスモデルを持ち込むことで、成長することもできます。
本を裁断し、スキャンしてデジタル化をするビジネスを展開しています。断裁とスキャン技術は印刷会社にもあるものです。このように、自社の技術を他の分野に転用することで新しいビジネスモデルを確立することができます。
化粧品通販で成功を収めている企業です。社長は広告代理店で化粧品のプロモーションを行なっていました。製品開発はもちろんですが、秀逸な広告展開で成功しています。広告出稿のノウハウがあるなら、通信販売への進出も可能です。
名刺のデータ管理を行っている会社です。印刷会社からの転身ではありませんが、同種のサービスは印刷会社でも可能です。
過去の印刷データの管理を得意としている会社は、顧客が困っている紙データのデジタル化がビジネスになります。
印刷専門の転職紹介サービスです。印刷業界の人は印刷業界に転職をします。ならば、印刷のことを理解した人材紹介会社を経由することで、Win-Winの転職をすることができます。
これらに共通するのは、自社の強みを生かしているということです。
チラシのDTPデータからYahooのバナー広告と映像を制作して、ローカルなテレビ局にCMを流すというメディアミックスサービスです。
負け犬意識を社内から追放する
では、印刷会社は今後どのような戦略を立てればいいのか、という提案をします。
まずは、印刷は古い技術だという考えを社内から追放することが肝心。これまで印刷業で生きてきて、これからも印刷業で生きるために、「印刷物の価値を上げる」と全社でコミットすることが大切です。
「印刷なんて・・・」という考えも、「印刷は古い」という考えも、ネガティブとポジティブに聞こえますが、どちらも負け犬意識です。
印刷業界が今度、何をすればいいのか?
では、ここから本題に入ります。
印刷業が今後取り組むことは、
「印刷物の価値を上げる」ということです。
価値とは、印刷物を使うことで経済的にプラスになる効果を生み出す企画を最重視するということです。
これまでのように印刷は情報を伝えるメディアとしてではなく、伝える情報に価値を見出すということです。
印刷物はコミュニケーション業ではなく、
プロモーション業
コンサルティング業
コンテンツ業
にシフトしていくべきです。
その際は、外注ではなく、社内のリソースを使うか、M &Aをすることで、社内に情報資産を残すことが大切です。もちろん、いきなりの投資はリスクがあります。最初は外注をしても、いずれ社内の資産とすることを視野に入れてください。
もう1点、注意すべきは、効率化ではなく価値にフォーカスすることです。効率化とコストダウンの提案しした場合、値下げ要請を求められ、印刷物の発注数を少なくしてしまいます。
価値のある印刷物とは何か?
例えば、写真集と会社案内があります。
同じ紙にカラーで印刷をされていて、ページ数も同じだと印刷料金は同じです。しかし、写真集には価格がつき、会社案内は無料で渡しても捨てられてしまいます。
この違いは何が印刷されているかです。
価値のある印刷物とは、価値のある情報が印刷されているのかということです。逆にいえば、印刷されている情報に価値をつけることが印刷業には大切です。
こちらは、時計の取扱説明書ですが、捨てられないどころか、話題になります。
「フランク三浦」の取り扱い説明書について
http://ozpa-h4.com/2013/07/03/frank-miura/
これが「情報」でなく、「コンテンツ」です。
ヤマダスーパーのチラシは意見広告としても全国的な話題となりました。
こうしたアイデアが印刷会社からもたらされることで、印刷業界の未来は明るくなります。
印刷物に価値を見出す方法
印刷物に価値を見出す方法をご紹介します。
1:発注者でなく、使う人を見てアイデアを考える
印刷会社は印刷を発注してくれる人を見ますが、大切なことは印刷物を使う人の意識です。会社案内を作成する場合、見る人は最初に何を知りたいのか?と考えてみましょう。
そうすれば、開いた最初に「社長の挨拶」以外のコンテンツの提案ができると思います。
2:マーケティングツールとしての活用
クライアントの売上に貢献する印刷物も価値があると言えます。
売上構築には、3つの顧客接点があります。
リード→見込み客の獲得
コンバージョン→成約率の向上
LTV→継続購入
それぞれに印刷物が使われているはずなので、リード、コンバージョン、LTVの向上する情報が入っていると印刷物の価値が上がります。
3:他のメディアとの連携
印刷物の限界は、
・紙面の限りがある、
・音が出ない
・動きがない
ということです。しかし、スマートフォンなどとの連携により、情報を拡張することができます。情報の拡張にはQRコードが使えます。今のスマートフォンは、カメラ機能でQRコードを読み取ることができます。
印刷物にQRコードを印刷することで、
印刷物→インターネット
の連携がより簡単になっています。
すると、
・スマートフォン用のホームページ
・ランディングページ
・動画サイト
などのクロスメディアの提案にさらに価値が高まります。
市場を拡大できる印刷物
では、今後市場を拡大できる印刷物について考えてみます。
1:チラシ
インターネットと比較してチラシの利点は、
・すぐに見ることができる
・一目で視野に入る情報範囲は広い
という2点です。
多品種を紹介するスーパー
店舗を中心としたエリアマーケティング
に関しては、受動的な見込み客にもリーチすることができます。
インターネット集客は、広告費が高くなるので、顧客獲得単価が上がります。また、シニア層は新聞などの紙媒体での訴求が有効なので、リード獲得コストを下げることができればチラシの需要は大きくなります。
2:ダイレクトメール
メールでのセールスは、見込み客に届く件数が多くなりすぎています。逆にダイレクトメールが届く件数が少なくなっています。
この点を考え、コンバージョンが上がり、LTVが上がるダイレクトメールの価値は高まります。
開封率をあげる工夫
申し込みやすい書類
などの提案により、印刷物の価値をあげることができます。
3:データ管理
ダイレクトメールの発送に関して、顧客データ管理もビジネスになります。発送データだけでなく、レスポンスもデータ化することで、効果的なダイレクトメール戦略を提案することができます。
4:パンフレット
商品の説明という視点から、契約につながるという視点を持って、企画デザインをすることで、市場を拡大することができます。
5:ホームページ制作
スマートフォンとの連携サイト、リッチコンテンツの作成に価値を見出すことができます。
現在、世の中にあるコンテンツの多くは、「ワードプレス」を使ったテキスト中心になっています(この記事もそうです)
そんな中に、イラスト作成、グラフィックデザインという印刷会社にあるリソースを活用することで、
まとめ
この記事では、印刷会社が今後どのような方向に進めばいいのかを考えてきました。
まとめると
印刷業で勝負する方向を決める
↓
社内にあるリソースを整理する
↓
人材育成
↓
印刷物の価値をあげる方法を考える
↓
提案
↓
改良
というサイクルを会社が安定しているうちに回すということです。
印刷会社の人材育成、付加価値提案に関しては、こちらからお問い合わせください。初回の個別面談は無料です。