低価格で勝つ!コストリーダーシップ戦略の6つのステップ

 

「価格で負けました。」と営業マンが言うことが増えたとしたら、あなたの会社は強烈な競争にさらされていることになります。

 

どんなに独占的で儲かるビジネスでも、競合が表れ、競争が始まります。あらゆる産業は遅かれ早かれコモディティ化します。

 

コモディティ化とは、消費者が製品やサービスの違いを認識しなくなった段階のことを言います。消費者に「どこで買っても同じ」と思われてしまえば、価格が安い方を選びます。

 

逆に言えば、コモデティ化した業界であれば、価格競争力で勝てるということでもあります。

 

徹底した低価格を打ち出す戦略をコストリーダーシップ戦略と言います。この記事では、コストリーダーシップ戦略の解説と実践企業例、中小企業がコストリーダーシップ戦略を実践する方法をお伝えします。

 

 

今後、盤石の業種はない

今後、経営をするにあたって盤石のビジネスは存在しないと考える方が懸命です。

 

例えば、通信業はNTTの独占市場でしたが、ソフトバンクやauが参入することで、価格が大幅に下がりました。

 

電気は各地の電力会社の独占市場でしたが、新規参入が解禁されてから、顧客が流出しています。

 

航空会社はJALとANAの2社が市場を独占していましたが、格安航空会社の参入により価格破壊が起こっています。

 

現在、最も安定性のあるビジネスは、鉄道関連です。ルートを独占しているので、競争が少ない業界です。それでも、ウーバーなどの参入で移動コストが下がれば、鉄道業種以外との競合になります。

 

すでにほとんどの業界では、熾烈な競争がはじまっています。そんな中で、最も確実で勝ちやすいビジネスモデルは、コストリーダーシップ戦略だと言えそうです。

 

 

 

コストリーダーシップ戦略とは?

コストリーダーシップ戦略とは、競合他社よりも低いコストを実現することにより、競争優位を確立する戦略です。

 

ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱した戦略です。

 

ポーター教授は、コストリーダーシップ戦略の他に、差別化戦略と集中戦略を提唱しています。差別化戦略は中小企業にはハードルが高いため、ここでは、コストリーダーシップと集中戦略を用いて競争を優位にする方法を考えます。

 

 

 

コストを下げる基本的な考え方

低コストを実現する方法として、規模によるコストダウンと効率化によるコストダウンをする考え方ができます。

 

1:規模によるコストダウン

・生産量を増やして、単位あたりの固定費を低減させる

・労働力、工程の効率化による生産性を上げる

・原材料費を下げる

・直接仕入れ

 

2:効率化によるコストダウン

・生産ラインの共有

・原材料の共有

・人員削減

・固定費の削減

 

コストリーダーシップ戦略に成功すると、低価格によって市場シェアを上げることもできます。また、他社と同価格でも利益率が上がります。

 

 

 

コストリーダーシップで成功している企業

ここからは、コストリーダーシップで成功している企業を紹介します。

 

 

1:ユニクロ

 

ユニクロは、1900円のフリースを売り出し、フリースは年間2600万枚もの売上を記録したと言われています。その後、ヒートテックやブラトップといった機能性の高い商品で業績を上げています。

→コストリーダーシップ戦略、差別化戦略

 

服を買い物カゴに入れて購入させるという点も秀逸な戦略です。気軽に何枚もの服を一度に購入し、「これだけ買って、この値段?」という経験をした人も少なくないでしょう。

 

一旦は、値上げによる売上の停滞もあったものの、圧倒的な市場シェアを獲得しています。

 

ユニクロの最大の特徴はSPA(製造小売業)です。SPA(製造小売業)とは、企画から製造、販売までの機能を垂直統合したビジネスモデルのことです。ユニクロの場合、商品企画・生産・物流・販売までを一貫して行うSPAモデルを他社に先駆けて確立し、高品質なカジュアルウエアを圧倒的な低価格で提供することで飛躍的な成長を遂げました。

 

卸や商社など中間流通を自社で手掛けることにより、余分なコストをカットし、製品に転嫁することができます。その結果、他社と同機能の製品が低価格で提供できる仕組みになります。

 

 

 

2:ニトリ

 

ニトリは従来のSPA事業モデルに、物流機能をプラスしています。商品の企画や原材料の調達から、製造・物流・販売に至るまでの一連の過程を、中間コストを極力削減しながらグループ全体でプロデュースする新たなビジネスモデル「製造物流小売業」を確立しました。

 

生産は外部に委託するものの、仕入れと生産管理、品質管理は徹底されています。

 

ニトリのビジネスモデル紹介

 

 

 

 

ここまでの話だと、規模による仕入れや大掛かりな生産体制が必要になるため、中小企業には実践が難しい内容になっているかもしれません。

 

そこで、ここからは中小企業でも実践がしやすいような事例を紹介していきます。

 

 

3:ソフトバンク

 

電話回線はNTTの独占状態でした。その中に、ソフトバンクはコストリーダーシップ戦略で市場を獲得しました。

 

ソフトバンクの携帯電話事業では、学生向けセグメントに狙いを定めた格安料金や割引プランの設定をすることでユーザーを取り込みました。

→集中戦略とコストリーダーシップ戦略

 

それ以前にも、ブロードバンド事業では、ADSL回線に縛って広告費や維持管理費を削減し、圧倒的な低価格戦略で業界に価格破壊をもたらしました。

 

それ以前にも、フォーバルとの協力体制により、「電話機は好きなメーカー・機種が選べる」「無料のアダプターをつけるだけで電話料金が安くなる」などのビジネスモデルを展開しています。これにより、情報通信業界に「サービス品質の向上」と「低価格化」をもたらしています。

 

さらに遡ると、孫正義氏は、自身が開発した自動翻訳機の売込みで得た資金を元手に、日本で、流行していた「スペースインベーダー」を、ブームが沈静化した後に大量に安価で買い取り、アメリカで売り出して大きな利益を得たとも言われています。

 

価格比較のサイトの立ち上げや型落ち製品の格安仕入れ、転売などは中小企業でも実践が可能です。

 

 

4:HIS

 

HISは創業当時、旅行業全体に対して手を伸ばすのではなく、低コストで旅行に行きたい、という層だけをターゲットにしてマーケティングを行っています。大手が手をつけない格安チケットを購入することで、コストリーダーシップ戦略に成功しています。

→コストリーダーシップ戦略と集中戦略の組合せ

 

製品自体の良さで対決するのが難しい場合に、業界内でともかく最安値をつけることで注目を引く、という作戦となります。

安かろう悪かろうと思って避けてしまう人をターゲットにせず、値段が安いというだけで利用したい人を取り込む作戦です。

 

その後も展開も、格安航空会社スカイマークを設立することで、航空料金の価格破壊に成功しています。

 

この話をすると、中小企業の場合、仕入れをどうするのか?ということが気になると思います。

 

HISも当初は、マイナーな航空会社との取引からスタートしています。乗り継ぎなど、便利とは言えないチケットでも、通常の半額になれば、購入したい人はいるのです。特に、不景気の時は、コストリーダーシップ戦略は有効です。

 

品質<価格

 

という顧客の市場は小さくありません。

 

 

 

5:サイゼリヤ

 

サイゼリヤは徹底したコスト管理を行い、他のファミレスに負けない価格競争力を維持しています。

 

飲食業界のSPA戦略に合わせて、効率化によるコストダウンに成功しています。

 

価格が下がれば、製品やサービスの価値が上がる

 

これもコストリーダーシップ戦略の要諦です。

 

サイゼリヤでは、価格と品質をより良くしていくため「エンジニアリング部」という部署を設けているようです。この部署では、全チェーン店の業務を見直し、生産性の改善・向上を行うことが目的となっています。

同部署が取り組んだ事例として象徴的なものが、掃除機を廃止しフロアモップに変えたことで、1時間の清掃を30分に短縮した。というものがあります。

 

他にも効率化によるコストダウンの例を紹介します。

 

・包丁を使わない調理

・少ない人員で厨房を回す(工場による加工)

・農家からの直接仕入れ

・自社農場による生産

・広告費をかけない

・現金支払いのみ

・メニューが少ない

 

直営農場では、畑の間に車が入ることができる通路が用意されています。通路のスペースは作物が作れませんが、車が入ることで積み込みの時間が短縮されます。鮮度のいい素材を効率的に工場に運ぶことができる仕組みです。

 

中小企業でも生産工程に無駄を省くことで、コストダウンをする方法があるかもしれません。

 

 

 

 

6:QBハウス

 

他にもコストリーダーシップ戦略で成功している企業があります。

 

QBハウスは、顧客自身ができることは、サービスから省き、カットのみに特化することで10分というスピードと1,000円(税別)という低価格を実現しました。

 

理美容室のボリュームゾーンは「おしゃれなヘアスタイル」を望む顧客でしたが、QBハウスは、とにかく伸びた分だけカットして手軽に済ませたいというニッチ市場に目を向けたことが成功につながりました。

 

サービスも効率化され、シャンプーを省き、エアウォッシャーで切った髪を吸い取っています。

 

サービス自体の品質は落ちますが、社員教育は徹底されています。丁寧な話し方で、「早めにシャンプーをお願いします。」と顧客に伝えることで不満足度を下げることができます。1,000円(税別)という価格と、スタッフの対応の良さからリピーターを獲得しています。

 

顧客のことを思えば、手間をかけることが正しいと思われがちですが、過剰なサービスになっている場合は、サービスを省略することもコストリーダーシップ戦略を取る上で、見直したいポイントです。

 

 

 

7:アイリスオーヤマ

 

衰退する家電業界で、「なるほど家電」で業績を拡大しているのがアイリスオーヤマです。

 

まず、アイデアがどこから出てくるのか?という理由は人材にあるようです。

 

アイリスの技術部門のスタッフは大手家電メーカーをリストラされたベテランエンジニアです。職を失った優秀な技術者を大量に採用し、家電事業に参入したのです。

 

アイリスには他のメーカーと全く違う価格戦略があります。毎週行われる「商品開発会議」では、開発者たちが、様々な「なるほどアイデア」を、大山社長に直接プレゼンをします。

 

この会議では、アイデアと価格が検討されます。要は「いくらなら売れるのか?」というユーザー視点が重視されているのです。通常のメーカーは、コストの積み上げにとって価格を決定します。アイリスでは、価格から逆算してコストを圧縮しているのです。

 

例えば、開発者が「12,800円」としたものが、社長の判断で「9,800円が適正」となった場合、コストダウンが製品化の条件となります。

 

多くの家電メーカーの商品は、新たな機能を加えればその分、価格も上げていくのが値付けの常識です。しかしアイリスでは、まず魅力的な価格を決めて、その価格を実現するために原材料や機能を徹底的に見直していくスタイルになっています。

 

例えば炊飯器では、大手メーカーが釜にコストをかけて10万円を超える高級品を次々と投入しているが、アイリスは高いものでも3万円程度の設定になっています。

 

実は、コストをかけても、一定のライン以上は、お米の味に変化がなかったというテストを行うことで、材料のコストダウンを決定しています。

 

一般的な産業で言えば、単品・大量生産の規模を追うことでコストリーダーシップ戦略を実行します。アイリスは、逆に多品種・少量で利益を確保できる仕組みで運営されています。

 

単品あたりの利益を計算し、大きくはないものの、すべての製品で利益を確保していることが高収益の理由です。

 

また、アイリスはメーカー機能と問屋機能をあわせ持つ独自の「メーカーベンダー」という業態を作りあげています。

 

製品を小売店に卸すだけでなく、小売店の売場をコンサルティングしながら魅力的な売場作りや販売促進をサポートします。

 

生活者の声がダイレクトにフィードバックされるため、生活者ニーズに対応したオンリーワン商品のスピーディな開発をも可能にしています。

 

アイリスオーヤマのビジネスモデル紹介

 

 

・価格から逆算すること

・消費者の声に耳を傾けること

・単品ごとの利益率を確保

・ニッチな分野で勝負する

 

アイリスオーヤマの戦略は、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略を両立させていると言えます。

 

 

 

中小企業がコストリーダーシップ戦略を実践する6つのステップ

 

ここまで7社の事例から、中小企業がコストリーダーシップ戦略を実践するためには、6つのステップがあることがわかります。

 

 

1:ニッチな分野を決める→HIS、OBハウス

 

2:勝てる販売価格の決定→アイリスオーヤマ

 

3:原材料の仕入れ価格の見直し(中間業者のカット)→ニトリ、サイゼリア、ユニクロ

 

4:徹底した作業効率の見直し→サイゼリヤ

 

5:単品利益の確保

 

6:一貫生産ラインの確保

 

 

 

 

まとめ

この記事では、コストリーダーシップ戦略の実践方法について考えてきました。この記事で紹介した7社はもともと大企業であったわけではありません。コストリーダーシップ戦略を活用することで、圧倒的な市場シェアを獲得しているのです。何かひとつでも御社の経営戦略に取り入れてください。

 

 

 

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この記事の執筆者

別所諒
・社長の味方コンサルタント
・株式会社経営戦略パートナーズ代表取締役
・心理カウンセラー

著書
「普通のサラリーマンが年収1000万円になる方法」

「がんばっても成果は出ない」

中小企業の2代目社長のサポーターとして、経営、マーケティング、組織開発の相談に乗っている。

 

 

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