企業が倒産する理由の第1位は販売不振です。売上が下がって支払うべきお金が支払えなくなる。それが倒産です。この記事では、企業が販売不振に陥る原因について考えてみます。
転ばぬ先の杖としてお役立てください。
目次
企業が倒産した理由
中小企業庁では、中小企業の倒産状況を把握することを目的に、株式会社東京商工リサーチの調査結果を取りまとめ、「倒産の状況」としてホームページで公開しています。
それによると、倒産の主な理由は
販売不振
既住のしわ寄せ
過小資本
放漫経営
連鎖倒産
設備投資課題
信用性の低下
売掛金回収難
在庫状態悪化
その他となっています。
中でも、最も割合が大きいのは、販売不振です。ここからは企業が販売不振に陥る理由を考えてみます。
販売不振理由1:業界シェアの縮小
業種には成長業種と衰退業種があります。成長業種にあると今後も売上の拡大が見込めます。一方で衰退業種にいると、同じことをしていても売上がダウンします。
自分の業界がどちらにいるのかはすでに実感していると思いますが、「業界別 業界規模ランキング」でリサーチすることも可能です。
https://gyokai-search.com/5-kibo.html
業界シェアの縮小が厄介なのは、急激に下降しないという点です。今日何かがあるわけでもなく、今期の決算は乗り切れそうという具合です。しかし、10年のスパンで考えると、業界シェアの縮小は大打撃となります。
例えば、印刷業の場合、2004年には7兆2127億円、2014年には5兆5364億円となり10年間で1兆7千億円の減少となっています。
https://www.jfpi.or.jp/topics_detail6/id=77
衰退業種では倒産する企業も多くなります。これは必ずしもマイナス点ではありません。倒産した会社が受けていた仕事は残っている会社に回るからです。つまり、市場規模の縮小と企業数のバランスの中で生き残って行くこともできます。
【衰退業種にいる場合に、倒産しないポイント】
・成長産業に進出する
・直受けと下請けの両方を備えて受注を確保する
販売不振2:競合に仕事を取られる
強力なライバルの出現でも販売不振に陥ることがあります。
家電量販店のコジマは、一時期業界売上1位になりましたが、ヤマダ電機の攻勢を受けて、販売不振に陥りました。
印刷業で考えてみますと、インターネットを使った格安印刷サイトの出現です。
従来の印刷会社は、営業マンなど人を介して受注を行ってきました。しかし、ユーザーがインターネットで直接発注ができる仕組みが登場して、人件費を下げ、効率的に印刷をすることができる企業の出現で価格は一気に下がりました。
小口の受注をメインとしていた印刷会社は打撃を受けました。
一方で、大量ロットの発注や複数箇所への納品、色へのこだわりがある印刷物は、インターネットで顔の見えない発注への不安があるため、引き続き、人を介した発注となっています。
ライバルは同じ業界から出現するとは限りません。スマートフォンの普及により、紙の本は売れなくなりました。売上が顧客のニーズを満たすことで生まれます。しかし、そのニーズを狙っているのは、同業種とは限りません。
【競合が来ても、倒産しないポイント】
・低価格路線を突き進む
・インターネットによる受発注システム
・付加価値を追求する
販売不振3:産業構造変化
産業構造変化により、製品やサービスが使われなくなり、販売不振に陥ることがあります。
典型的な事例は写真フィルムのコダックの破綻です。
写真フィルムはかつて世界で4社しか製造できなかった商品でした。アメリカのコダック、ドイツのアグファ、日本の富士フイルム、コニカの4社の寡占市場であり、各社は高収益を計上していました。その後、ご存知の通り、デジタル写真技術の進歩で、銀塩式の写真フィルムの需要は激減しました。富士フィルムなどは、独自技術を展開して業績を上げています。
レコード針はCDの出現で需要が減少し、そのCDもデジタル技術によりシェアを落としています。
他にもスマートフォンカメラの性能が向上したことで、カジュアルモデルのデジカメは販売数を落としています。
新技術による産業構造の変化で、販売不振に陥ることがあります。経営者はユーザーの視点を持ち、産業構造や新技術の情報を入手する必要があります。
もちろん、産業が全く消滅しているわけではありません。レコード針は現在も生産されていますし、ベストセラーも生まれています。高性能のカメラも売れています。業界1位の品質を保つことで生き残りは可能です。
【構造変化でも、倒産しないポイント】
・自社技術の横展開
・業界1位の品質
販売不振4:値引き要請
主要な得意先からの値引き要請により、販売不振に陥ることがあります。
インターネットによる通信販売はサービス競争が激しく、送料無料が当たり前になりました。しかし、企業は送料を運送会社に払っているので、価格が安い会社が重宝されます。
一方で、大手運送会社は、価格が折り合わず、大手通販との取引を停止しています。この仕事は中小の運送会社に流れています。ここでは価格競争が起こります。価格が下がることでこれまでと同じ仕事量では売上が下がることになります。
仕事がきつくなれば、優秀な人材を採用することもできません。満足できる人材でなくても、売り手市場なら人件費も抑えることができません。
同じ産業構造は建設業にも言えそうです。
【値引き要請でも、倒産しないポイント】
・コストコントロール
・業務のアウトソースによる効率化
販売不振5:システム変化への対応遅れ
医療や製薬業界は毎年のように法律が変わります。薬局は国の方針により、地域住民の「健康情報拠点」という社会的機能の拡充が必要となっています。在宅訪問の点数が上がることで、薬剤師の仕事は増えます。仕事が増えるということは人を増やすか、設備投資が必要になります。
大手薬局は本部機能を充実させることで、健康情報の提供を積極化し、システムを導入することで投薬を効率化しています。一方で中小の薬局はシステム化が進まず、格差が広がっています。
製造業でも設備が古い場合やシステム化が遅れている場合は、納期や品質に差が生まれます。
【システム化遅れでも、倒産しないポイント】
・資金調達
・営業力の強化
販売不振6:大口依存
ある印刷会社は売上の約半分を大手量販店のチラシでまかなっていました。取引は10年以上に及び、他社の参入も許しません。しかし、量販店が広告宣伝の方針をチラシからスマートフォンに切り替えたことで売上が激減しました。
他にも、コンビニにスイーツを下ろしている食品メーカーでは、発注量に応じて設備を導入しました。しかし、スイーツの人気に陰りが見え、発注量は下がりました。コンビニなどは商品展開が早いので、一時期の発注量に合わせて設備を大きくすると、その後に重荷になることがあります。
大口顧客に依存している場合、相手の都合で販売不振に陥ることがあります。
【大口取引でも、倒産しないポイント】
・得意先の分散化
・設備投資を慎重に行う
販売不振7:業務用取引の縮小
得意先の方針転換で販売不振に陥ることもあります。
あるクリーニング店は、工場が集まっている地域にお店がありました。個人客よりも、法人からの制服や作業着の依頼が売上の大半でした。
しかし、ある時、得意先の企業で、「制服の選択は社員が各自で行うこと」という方針が出されました。数百円でも自腹は切りたくないものです。社員は自宅で選択をするようになりました。その後、制服そのものが廃止となりました。
銀座にある高級ステーキ店は、ある企業の接待の場として使われていました。この企業は、業績低迷の煽りを受けて、接待を自粛するようになりました。接待に使われることがなくなり、ステーキ店は販売不振に陥りました。
【業務用取引の縮小でも、倒産しないポイント】
・得意先の分散
・マーケティング活動を行う
販売不振8:財布の紐が閉まる
あるフレンチ店は、バブル期に創業し、時代の流れを経て恵比寿、代官山に出店しました。お店は連日賑わい、若い人も高級ワインをあけてしました。その後に、バブルが崩壊し、財布の紐は固くなりました。
お店には人が減り、低価格の牛丼やハンバーガー店に行列ができました。こうなると、800円の定食でも高く感じます。
また、高級フレンチを立ち食いで安く提供するお店が進出してくることで、客足はさらに途絶えます。
景気が悪くなり、財布の紐が固くなれば、個人店は食材仕入れやオペレーションで勝る大手に太刀打ちするのが難しく、販売不振に陥ることがあります。
【業財布の紐が閉まっても、倒産しないポイント】
・適正価格で高品質な商品開発
・固定客へのマーケティング戦略
販売不振9:営業マンの流出
ある小さな広告代理店では、常務が営業を担当していました。クライアントとの関係も良好で、仕事はどんどん入ってきます。社長は制作部門の担当で、最近では社員の教育に時間を使っていました。
ある時、常務が、社長の育てた制作担当を連れて独立すると言い出しました。以前から計画的に進めていたようで、クライアントの大半は常務に発注するとのことでした。この広告代理店は、売上の大半を失うことになりました。
他にも、学習塾で生徒を連れて独立をされたケースもあります。在職中の営業活動においては裁判で営業権を無効にしたり、損害賠償を請求することもできますが、得意先の評価を取り戻すことは簡単ではありません。
【営業マンが流出しても、倒産しないポイント】
・顧客管理の一元化
・社長の定期的な表敬訪問
・優秀な社員に対するケア
販売不振10:風評被害
東日本大震災による原発事故で、近隣の農作物が風評被害で出荷ができなくなりました。
あるお弁当製造会社は、近隣の工場からの発注で売上を上げていました。しかし、景気低迷と弁当チェーン、コンビニ弁当の低価格化と品質向上、ワゴン車で販売をする個人業者の進出で販売不振に陥りました。
市内の学校給食を引き受けることで、売上を回復させますが、異物混入で自体は一変します。元社員からSNS上で工場の不衛生さを暴露され、市から業務委託契約を解除されてしまいました。
異物混入は、「ペヤングソースやきそば」で知られるまるか食品でも発生しています。しかし、販売自粛の後、売上を回復させています。
復活劇の要因は同社の危機管理の成功にあります。すぐさま自主回収を決定し、さらには、丸橋嘉一社長が小売店へお詫び行脚を行いました。販売中止の間、社長は自ら工場に来て仕分けを率先して行ない社員を鼓舞するほか、社員の解雇も減給も行なわないなどモチベーションの維持にも注力したと言われます。
工場や社員の責任にすることなく、リーダーシップを発揮することで危機を乗り越えたのです。
【風評被害でも、倒産しないポイント】
・危機管理
・社員のSNS投稿のガイドライン設定
・経営者のリーダーシップ
まとめ
この記事では企業が販売不振に陥る10の理由を解説してきました。企業が販売不振に陥る理由で不思議なケースがあるのは稀です。ほとんどのケースでは、予兆があります。つまり、対策を打つことができるのです。企業が販売不振により倒産する理由は、手を打つのが遅いということです。この記事で紹介したケースを参考に、予兆があればすぐに手を打ってください。