できる社員がパワハラ上司になってしまう12の理由と7つの対策

 

 

「上司はつらい」

 

経営コンサルタントとして、中小企業のコンサルティングに入っていると「今時の上司は大変だ」と思います。

 

この記事は、中小企業の社長に読んでいただきたいと思っています。

 

上司は、プレーイングマネージャーとして現場で仕事をして、部下を育成しなければなりません。しかし、部下は指示待ちで、上司が指示をしなければ仕事をしないし、指示したことしかしない。

 

自分と比べて仕事への熱意が足りないと思って、厳しく言うと、「パワハラ」「セクハラ」という騒ぎになってしまいます。

 

ネットでは「パワハラ上司」に関する批判が溢れて、その特徴なんかも列挙されています。

 

部下を育成しようとしているのに、パワハラ呼ばわりされて、社長には「若手がやめるのはお前のせいだ」なんて言われてしまう。

 

がんばった挙句に、「パワハラ上司」にされてしまうような管理職の悲哀を社長が理解しなければ、彼らは浮かばれません。

 

よくよく見ると、パワハラ上司は、誰よりもがんばっている人なのです。この記事では、社長や経営幹部がパワハラ上司のためにできることを考えます。

 

 

パワハラの相談件数が激増

パワハラという言葉は2001年(平成13年)に東京のコンサルティング会社クオレ・シー・キューブの代表取締役岡田康子とそのスタッフが創ったと言われています。

参考

 

その相談件数は激増しています。

 

 

グラフ引用

 

名前をつければその現象は広がるので、グラフの通り、「職場でのいじめ・嫌がらせ」の相談件数は増えています。

 

 

 

 

本当にパワハラ上司が増えたのか?

平成18年から平成28年の間に約3倍の件数増となっていますが、本当にパワハラ上司が増えたのでしょうか?

 

グラフの上昇は、次の2点の要因で考えることができます。

 

1:パワハラ上司が増えた

2:以前はパワハラでなかったことをパワハラと相談する人が増えた

 

もちろん、双方の要因で増えているのだと思いますが、この点を考慮すると、パワハラは上司だけの責任ではないと思います。

 

 

 

パワハラ上司は仕事熱心

パワハラ上司について批判や弾糾する記事や情報が多いですが、職場を見ていると、あるパターンがあることに気づきます。

 

それは、

 

・パワハラ上司だと言われている人は、熱心なビジネスマンであるということ。

 

・パワハラを受けている人は、職場で仕事ができないと評価されていること。

(あくまで評価です)

 

ということです。

 

パワハラ上司の構図としては、

 

仕事ができる上司が、

仕事ができない部下を指導しようとして、

行為が行き過ぎてしまっている。

 

部下の成長が見えない、

もしくはやる気が感じられない(と上司が思っている)ので、

イライラして

厳しい言葉を発してしまう。

 

短気な上司の場合は、

手が出てしまう。

 

部下の反抗的な態度(と上司が思っている)に

キレてしまう。

または嫌味を言ってしまう。

 

あきらめて、

仕事を外す、

退職勧告をしてしまう。

 

ということです。

 

仕事ができて、

やる気のある(と上司が思っている)

部下は可愛がります。

 

 

ある有名な経営者の講演録を紹介します。

 

「私の会社はものすごく厳しい。私は怒ったらスパナを投げますので、うちの幹部社員はスパナで鍛えられたようなものです。私のようになりたいのであれば、そのような苦労をし、私のようにがんばれ」とさえおっしゃいました。

 

(中略)

 

浜松の芸者を総揚げして派手に遊ぶこともあったと聞きます。若い頃、生意気な若い芸者を二階から突き落としたという逸話があるくらいです。芸者を総揚げしてどんちゃん騒ぎをするという、並の人にはできない遊びをして発散をする。そしてまた人一倍がんばって働く。そのためにはお金が要る。私と同じようになりたかったら、同じように苦労しがんばってみなさい、という話をしておられるように、自分自身をそうしてモチベーションアップされていたのです。

 

たいへん男らしい考えだと思い、私は刺激を受けました。

 

という記事があります。この記事に出てくる人物は本田宗一郎さんであり、回顧しているのは、稲盛和夫さんです。

引用

 

この話が本当だとすると、今なら、パワハラどころか、傷害事件です。

 

社会には悪質な人物はいます。役職などの力を使って部下に圧力をかけることは許されません。しかし、パワハラ上司だと言われている人がすべて悪質な人物かと言えば、そんなことはないと感じます。

 

かつて許されていたことが今は許されない。

 

会社と社員

上司と部下

 

その関係が大きく変化しています。それが、パワハラ上司を生み出している原因だと思います。

 

そんな狭間で、業績の責任を押し付けられて、苦しんでいる上司たちがいることに経営者は目を向けないといけないと感じます。

 

 

 

パワハラ上司は仕事ができる

会社で出世するためには、仕事の実績を積まなければなりません。また、自分の上司との折り合いを上手につけないと、出世の道も閉ざされてしまいます。その意味では、パワハラ上司は、ビジネスマンとして有能な場合が多いと言えます。

 

いつの時代も「今時の若者は・・・」と言われます。エジプトの古代遺跡にもそんな記述があったと言われるので、世代間ギャップは最近の話ではありません。

 

世代間ギャップについて象徴的な言葉は「新人類」ではないでしょうか。

 

筑紫哲也が名付け親で、1986年の流行語大賞にもなっています。新人類も、今や50代になり、理解できない若手社員に「パワハラ上司」呼ばわりをされています。

 

この頃のCMで象徴的なのは、リゲイン。1988年発売。まさに、社会は「24時間働けますか?」。パワハラ上司は、この頃に若手社員として仕事をしていたのです。

 

 

 

 

世代間ギャップの逆転現象

1986年頃の部下指導は、仕事はバリバリが当たり前なので、現在、パワハラと認定されることは日常的に行われていたと感じます。

 

先ほど紹介した稲盛さんの記事は1990年に出ているので、当時は厳しい指導が当たり前だったことがわかります。

 

新人類は50代の管理職になっていて、ゆとり世代(1987年―2004年生まれ)の20代、30代が部下。

 

この構図を考えれば、世代間ギャップがない方が不思議ですね。

 

とは言え、上司は厳しく絶対的な存在で、部下はそれに従うしかないという構図はどこから変化したのか?

 

サッカーの日本代表に照らして考えてみます。

 

1998年 フランス 監督:岡田武史

2002年 日韓 トルシエ

2006年 ドイツ ジーコ

2010年 南アフリカ 岡田武史(オシム)

2014年 ブラジル ザッケローニ

 

参考

 

監督が選手の自主性を重んじているタイプに変化していることが見て取れます。また、2010年のW杯開催前には、岡田武史監督はマスコミ、ファンから大バッシングを浴びていました。結果は決勝トーナメント進出を決めたので、現在では名将と呼ばれていますが、もし3敗で帰国していたらどうなっていたでしょうか?

 

昨今、監督への風当たりはどんどん強くなっており、選手が監督の采配に口を出すことが当然のようになっています。

 

2018年ロシア大会では、本大会進出を決めたのにかかわらず、大会直前で、選手とのコミュニケーションの問題で監督が解任されるという事態になっています。

 

この事態を、管理職に当てはめると、結果を出さなければ更迭され、結果を出しても部下のやる気を出すことができないと更迭されるという厳しい状態です。

 

監督は選手を選ぶ立場から、選手に選ばれる立場に逆転されたとも言えます。

 

こうした状況の中で、有能なビジネスマンがパワハラ上司になってしまう理由を考えます。

 

 

 

有能なビジネスマンがパワハラ上司になってしまう理由

ここからは有能なビジネスマンがパワハラ上司になってしまう理由を考えます。

 

1:責任感が強すぎる

上司は、

・上の言うことは絶対

・目標必達

・サービス残業当たり前

・プライベートよりも仕事が優先

と言う会社人間として、キャリアのほとんどを過ごしています。時代の変化は感じつつも、身についた文化は変えることができません。上司から見えれば、仕事よりもプライベートを重視する若手に苛立ってしまうのです。彼らは責任感が強すぎるのです。

 

 

2:自分が受けた教育の影響

かつては、上司と部下の関係では、上司が絶対でした。上司が評価しない部下は仕事ができないと認定されます。ですから、今の上司たちは、その上司に評価される仕事をしていました。しかし、手厚い教育があるわけでもなく、「見て覚えろ、覚えられない奴はダメな奴だ」と言われ、自ら率先して仕事をしていました。

教えられずに育った上司と、教えられることに慣れた若手とのギャップに上司は苛立つのです。

 

パワハラ上司はかつて自身もパワハラを受けており(当時は教育として容認された)、そのパワハラに耐えて実績を残した人物が多いのです。

 

 

3:教育のやり方がわからない

自分たちが体系的な教育を受けていないので、部下をどう教育していいのか、わからない上司は増えています。自分が受けたよりも甘くしているはずなのに、パワハラと呼ばれる上司は、部下をどう教育していいのかわかりません。

 

 

4:不況

上司は若手の時代は、景気が良く、普通に仕事をしていれば売上が上がり、給料とボーナスも上がり続けるものでした。しかし、バブル崩壊以降、長期にわたる景気低迷の中、最前線で仕事をしてきたのは、上司たちです。上の世代からは具体的な戦略を提供されず、がんばるしかない。若手も一緒になってがんばってほしいが、それが価値観の押し付けになっているのです。

 

 

5:やめる若者の急増

不況は就職難を生み、希望の仕事、希望の企業に入社できない若者が増えました。また、内定取り消しなどの自体もあり、若者にとって会社は、「ずっと仕事をする場所」ではなくなりました。結果、会社を辞める若者が増えました。上司の世代も転職は珍しいことではありませんが、それでも、入社した会社でがんばるという意識は強く、「会社は辛いこともある場所」と言い聞かせて、毎朝会社に行っているのです。こうした自分の感覚と違い、若手が転職を安易に考えるとうに思えるので、苛立ってしまうのです。

 

 

6:都合のいい情報の氾濫

インターネットで情報が入手しやすくなりました。知的な好奇心を満たす反面、稚拙な情報に影響を受けやすくなりました。「セクハラ」「パワハラ」は、明確な区分がありません。個別の状況を鑑みた判断となります。

しかし、自分に都合のいい情報を盾に、他人を批判する文化が醸成されているので、批判する側の力がどんどん強まっています。

 

 

7:部下のミスも上司のミス

日本では部下のミスは上司の責任となります。部下のミスを、さらに上役から指摘されて、自分の評価が下がってしまえば、たまったものではありません。結果、部下のミスに寛容にはいられないのです。

 

アメリカでは、上司と部下とは言え、上司が直接関わっていない仕事で部下がミスをした場合、部下の個人責任となり、上司は関係がありません。このように個人責任の国ではパワハラ問題は起きにくいですが、部下を育成するという意識が希薄なります。

 

 

8:リストラの恐怖

上司は、実績による評価とノルマをこなすことを押し付けられ、使えなければリストラになる恐怖を味わった世代です。自分の仕事はもちろん、部署しての評価が長年、「実績」になっていたので、仕事のできない部下は、自分の立場を危うくします。結果、部下に厳しく接してしまうのです。

 

 

9:刷り込まれた価値観

「男はしっかり仕事をして家族を養うもの」

男女機会均等の時代には、このような価値観は批判されるかもしれません。しかし、上司の世代では、仕事をして給料をもらい、家族を養うという価値観が刷り込まれています。

だから、結婚しない、共働きは普通という若者の意識に、意欲の足りなさを感じてしまうのです。

 

 

10:会社への忠誠心の違い

長く会社に勤めれば、愛着が湧きます。これまで、自分に仕事の場を提供してくれて、給料とボーナスを支給してくれた会社に感謝をするようになります。同時に、年を取ると転職が難しくなります。良くも悪くも、上司は、会社に骨を埋める覚悟です。そんな意識に反して、忠誠心の低い若手に苛立つのです。

 

 

11:教育熱心すぎる

「君のためを思って・・・」というのは、場合によっては大きなお世話になります。しかし、上司は自分の価値観から、若手を見て、本当に「このままだといけない」という危機感を持っているのです。

ただし、こうした価値観の押し付けは、部下にとっては迷惑になり、上司のような人生を歩みたくないと意思表示をするほど、上司とのギャップが大きくなるのです。

 

 

12:忙しすぎる

現場の仕事を担当している上司は、忙しすぎて部下に構っている時間がないと感じています。また、部下の育成が評価にならず、ついでに仕事だとしたら、やる気も生まれません。そんな中で、手間をかける部下にはイラついてしまうのです。

 

 

 

パワハラ上司を作り出す原因はトップにある

部下の責任は上司にあるとしたら、上司の責任はその上司にあります。社内でパワハラが横行しているとしたら、その最終責任はトップにあります。また、原因を作り出しているのはトップであることが少なくありません。

 

我慢強く、しっかりと仕事をする上司に、トップはパワハラまがいの指示を出したり、対応をしていないか、今一度、ご自身を振り返っていただきたいと思います。

 

 

 

社長ができるパワハラ上司7つの対策

その上で、トップである社長ができるパワハラ対策についてお話しします。

 

1:上司を認める

悪人でない限り、上司がパワハラをしてしまう原因があるのです。

 

・仕事ができる

・責任感がある

・愛社精神がある

・教育熱心

 

こうした上司をいい面をトップが認めること。パワハラ上司は、トップに認められない恐怖に耐えてがんばっているのです。上司だけを悪者にするのは正しいとは言えません。

 

 

2:立場を保証する

実績を出さないとリストラされる。

しかし、部下は「こんな会社辞めてもいいですよ」という態度を取る。

 

上司として、こんなに恐ろしい立場はありません。上司のパワハラをなくそうとするなら、上司の立場を保証するということが大切です。リストラはしないと約束し、上司の安全性を確保してください。

 

 

3:トップが態度を改める

トップ自身の口の聞き方、上司に対する接し方の一部にでも、パワハラもどきがあれば、上司は部下に同じことをします。トップが自らの態度を改めないと上司のパワハラはなくなりません。

 

 

4:社内の文化を変える

パワハラかセクハラかのガイドラインの線引きは曖昧です。それは、関係性によるからです。ですから、社内で細かいルールを決めても意味がありません。

 

社長ができることは、パワハラのない職場にする文化を作ることです。

 

そして、

・部下を怒鳴らない

・マイナスの言葉を口にしない

という程度のルールを決めておくということです。

 

 

5:社内に相談窓口を設ける

役員の中から、公明正大な人物を選び、パワハラ窓口を設けて、社員からの相談を受けるようにします。担当役員は、事実を公平にヒアリングして、善悪をつけずに改善策を考えます(この役目は社長にはできません)

 

 

6:部下の育成を評価とする

実務の実績だけでなく、部下の育成も評価の対象に加えます。仮に、実績が劣っていても、部下の育成評価で取り返すことができるくらいの制度の導入で

 

 

7:コーチングの研修を取り入れる

上司の多くは、今時の部下の扱い方の教育を受けていません。トップは、上司に教育の方法を教える手立てを組んでください。効果的なのは、「コーチング」です。部下のやる気を引き出す方法を学ぶことで、部下との接し方が変わります。

 

 

パワハラを受けているかもしれない方へ

この記事は、決して上司を擁護するために書いたものではありません。パワハラは許されるものではありません。もし、あなたがパワハラを受けているとしたら、我慢する必要はありません。法律でもあなたは守られています。

 

しかし、ほんの少しでも上司への理解をすることができるなら、上司だから人間的に優れているわけではないことを知ってください。私たちは常に発展途上であり、未熟な存在なのです。

 

 

 

まとめ

この記事では、できるビジネスマンだったはずの上司が、パワハラ上司になってしまう理由を12の角度から分析しています。パワハラ上司を非難するのではなく、彼らがパワハラをせざるを得ない理由に目を向けて、対策を立てていただきたいと思います。

部下の責任は上司にあるとしたら、パワハラ上司の責任はトップである社長にあるのです。どうか彼らを責めずに、より良い会社を作るようにしてください。

 

 

 

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この記事の執筆者

別所諒
・社長の味方コンサルタント
・株式会社経営戦略パートナーズ代表取締役
・心理カウンセラー

著書
「普通のサラリーマンが年収1000万円になる方法」

「がんばっても成果は出ない」

中小企業の2代目社長のサポーターとして、経営、マーケティング、組織開発の相談に乗っている。

 

 

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