ワンマン社長に振り回されているという社員さんの話をよく聞きます。
社長の考えを改めて欲しくて、意見をしたいけど、逆ギレされて、最悪の場合、クビになるかもしれない。そんな恐れの中で仕事をしている幹部社員もいます。
「どうにかしたい」と思うものの、実際にどうにかなった例はほとんどありません。
結局、部下からの意見を社長に通す際、細心の注意を払いつつ、社長の気分を損ねないように話をする。そんなことをやっていると会社はよくならないし、体が持ちません。
この記事では、ある製造業の役員の方からいただいた、ワンマン社長の特徴と付き合い方についての質問にお答えします。
目次
ワンマン社長で本音の意見が言えません。
「私はある製造業の役員です。当社の社長はワンマンで本音の意見が言えません。会社の業績が横ばいで、不況業種の中では大健闘だと思っています。しかし、社員は毎日長時間労働をしており、残業代は支給されていません。毎年同じ仕事をしていて、給料の昇給もほとんどありません。すでにこの状態で何年も経過しています。なんとかしたいと思うのですが、社長に本音の意見が言えません。どうしたらいいでしょうか?」
「なるほど。ワンマン社長に苦労している役員の方は多いですね。同じようなお話をよく聞きます。大変にご苦労をなさっていますね。
まず、最初にお話をしておきたいことがあります。もしかしたら、がっかりされるかもしれませんが、とても大切なことです。ワンマン社長と付き合うのはそれほど難しいことでもあります。一方で、ワンマン社長について理解ができれば難しいことではなくなります。
最初にお話する点は3つです。
1:ワンマン社長は悪いことなのか?
2:人を変えるのは無理
3:最悪な人間は存在する
1:ワンマン社長のメリットとデメリット
まず、リーダーのあり方について考えてみましょう。
A:部下のことを考え、献身的に自分の身を捧げ、正しい道を示してくれるので、いう通りにしていると、すべてうまく行くリーダー。
B:独善的な人に相談しないで決定してしまい、部下に関しても厳しい仕事を要求するが、判断は間違っておらず、組織は繁栄している
C:部下の意見に耳を傾け、意見を取り入れるが、決断が遅く、やってみると失敗することもあり、組織は常にギリギリの状態になっている
D:自分は何もせず、部下に責任を押し付けて、失敗すれば部下を責める。社長だけが利益を得て、部下は常に厳しい状態にある。
たいていの人は、Aのリーダーを理想として、Dのリーダーを嫌います。
問題は、BとCのどちらがいいのかということです。
平たい話をすると、
厳しいけど、給料が多い
やさしいけど、給料が少ない
のどっちがいいかという話ですね。
どっちも嫌なのはわかりますが、中小企業の社長というのは、全員がそれほど優秀というわけではありません。社長なら売上を上げて利益を出すことを目標にしています。それはうまくできればいいのですが、そうはいかないので苦労しているわけです。結果、ワンマンにならざるを得ないこともあるのです。
2:人を変える方法
「過去と他人は変えられない。変えることができるのは、未来と自分」という話があります。
まさに、これは真実で、人はそもそも自分が思うように動いてくれないものです。相手を変えようと思うなら、自分が相手への接し方を変える。
相手に好きになってもらおうと思うなら、自分から相手を好きになることです。こうした話は鏡の法則とも言われます。厳しい言い方ですが、あなたが社長に本音を言えないのは、あなたに理由があるかもしれません。社長を信頼できていれば本音も言えるでしょう。逆に、本音を言えないのは、「君はどうなの?」「それを言うなら自分がやれば」という話が返ってきた時に、都合が悪いことがあるかもしれませんね。自分は絶対に必要な人間でクビになるはずがないと自分を信頼できていれば、話をすることができるかもしれませんね。
3:最悪な人間は存在する
とは言え、世の中には、自分のことだけを考えている最悪な人間もいます。相手を軽んじた対応をする人に、まともに接することはできません。もし、御社の社長がそんな人なら、会社を辞めてしまうのも手です。
しかし、そんなに最悪の人は多くはないし、とっくに会社は倒産しているでしょうから、よい点もあるはずです。良い点をテコにして付き合い方を考えることが突破口になります。
ワンマン社長の7つの特徴
ここからは、ワンマン社長の特徴について考えます。これまで、多くの会社を訪問して共通するのは、次の7つになります。
1:社員の話を聞かない
積極的なのはいいことなのですが、自分の思い通りにことを運びたいあまり、自分の話をするが、社員に意見を聞きません。
2:自分が賢いと思っている
社内で自分以上の人材はいないと思っているので、社員に対してバカにしたような指示を出す。また、自分の意見と違う意見を極端に嫌います。
3:感情をコントロールできず、人に当たる
すぐに感情的になり、怒鳴ります。また、気分の悪いことがあると、関係のない人に八つ当たりします。
4:短気
結果を急ぐので、短気です。頭の回転が早いという利点もありますが、すぐに行動しない慎重派の人にイライラします。
5:言うことがコロコロ変わる
思いつきで行動するので、言うことがコロコロ変わり、社員を振り回しますが、特になんとも思っていない
6:相手の予定よりも自分の予定を優先する
自分の時間を大切にするので、社員の予定を変えることを悪いと思っていません。待ち合わせにも遅れるし、ドタキャンもします。しかし、重要なお客さんは目上の人にはそんなことはしません。
7:社員に給料を払ってやっていると思っている
会社のお金は自分のお金だと思っているので、自分の交際費は使いますが、社員からの経費の申請に機嫌を悪くします。また、社員の給料を払ってやっていると思っているので、理由なく昇給させるのを嫌いますし、給料やボーナスにお礼を言われないと機嫌が悪くなります。
というところでしょうか?
こうした人を嫌いだと思ってみると、最悪の人物になります。
一方で、
子供っぽいけど一生懸命で、不器用だと思えば、可愛い面もあるかと思います。私は、社長とそのように付き合っています。もちろん、当事者としては、そんな他人事のようなことは思えないかもしれませんけどね。
ワンマン社長の会社で具体的にどんな問題が起こっているのか?
ワンマン社長というのは、よい響きではありませんが、儲けている会社の多くはワンマン社長です。
A:部下のことを考え、献身的に自分の身を捧げ、正しい道を示してくれるので、いう通りにしていると、すべてうまく行くリーダー。
B:独善的な人に相談しないで決定してしまい、部下に関しても厳しい仕事を要求するが、判断は間違っておらず、組織は繁栄している
どっちもワンマン社長です。Aの場合は問題が少なく、Bの場合は問題があります。
具体的な問題とはなんでしょう?
・売上は?
売上が上昇しているか、キープできており、黒字になっているなら、社長の成績表は○です。経費を使いすぎたり、戦略が間違っていて赤字になっているなら、×です。赤字になっていて、社員に「コスト削減」と「営業に行け」と怒鳴っている場合は、相当に焦っている状態です。アイデアのない自分に焦り、アイデアを出してこない社員に苛立っています。
実際、ワンマン社長は儲かっていれば機嫌がいいし、儲かっていなければ機嫌が悪いというわかりやすい人種です。
ワンマン社長であることが問題になるのは、会社が厳しい時ですね。
儲かっていないので、儲けるために社員を働かせたい。しかし、思うように仕事をしてくれない。それで怒る。
その結果、どうなるかと言うと、
・社員の元気がない
・人が辞める
・優秀な人材が採用できない
というサイクルになり、社員のワンマン社長への不満が大きくなるのです。
ワンマン社長の下で仕事をする2つの方法
こうしたワンマン社長の下で仕事をする方法は、
1:Yesマンに徹する
2:圧倒的な成果を出す
と言うことになります。この2つは正反対のことのように思えるかもしれませんが、共通していることがあります。
それは、社長の希望を叶えていると言うことです。
私は、Yesマンが悪いとは思っていません。社長からすれば、文句を言わずに、自分の意見に従って、行動をしてくれる社員はありがたいものです。社長からして信用ができないのは、「Yes」と言っているけど、行動が伴っていない社員です。
もうひとつ、社長がうれしいのは、成果を出してくれる社員です。
ワンマン社長を観察していると、誰にでも横柄に接しているわけではないことに気づくと思います。売れている営業マンには好意的で、評価もしているはずです。
こうしたワンマン社長の下では、目に見える成果が上げにくい部署は不利です。
総務や経理、製造手配などは評価がされにくい。お金で換算できる成果を重視するので、「自分たちがいなければ会社が回らない」というのは、響きません。代わりはいると思っています。
金額換算が難しい部署は、金額換算のできる仕事を自分たちで作ることをお勧めします。
総務ならコストダウン
経理なら回収率のアップ
製造は品質の向上やコストダウン
こうした仕事を自発的に提案した場合、「そんなことはいらない」とは言われません。社長が嫌うのは、自分の方針に逆らわれることです。
そうした仕事をすることは難しい場合は、転職をすることも悪くはありません。評価の軸が違う会社もあります。
なぜ、ワンマン社長に本音が言えないのか?
社員からすれば、本音を聞いてくれる社長がいいと思うかもしれませんが、社長からすれば聞きたい本音とそうでない本音があります。
聞きたい本音は、会社のためになること、建設的な話。
聞きたくない本音は、自分への不満、愚痴。
これはどんな社長にも共通しています。
ある大手IT企業の社長は、大人しくて性格がいいと評判ですが、
成果を上げている社員としか話さない
飲み会を積極的に開催しているが、そこに来るのは成績がいい社員だけ
と徹底しています。
社長を否定することなく、会社が良くなる意見であれば聞かない社長は、(性格が最悪の社長でない限り)いません。
あなたがいう話を採用して、
・社員の元気が出る
・人が定着する
・優秀な人材が採用できる
結果、会社が儲かることがわかっているなら、その話を却下する社長はいません。
あなたの話が解決策なき忠告なら、誰でも聞きたくありません。もし、あなたが社長に本音を言えないとしたら、自分が成果を上げていない自覚があるからではないかと自問してみてはいかがでしょう。
自分を変えることで、社長へのコミュニケーションも変わります。
中小企業の役員は経営者かサラリーマンかの瀬戸際です。役員とは言え、社長に逆らえない立場であることは理解しています。だからこそ、一般社員との違いをどう自覚するのかはあなたにかかっています。
実際、「いつでも、他の会社に就職できる」と考えている社員は、はっきりものを言っていることが少なくありません。あなたに保身がないか、今一度、自問をしてください。
なぜ、ワンマン社長になるのか?
ここからは、ワンマン社長になる心理について考えてみます。
1:社員の話を聞かない
2:自分が賢いと思っている
3:感情をコントロールできず、人に当たる
4:短気
5:言うことがコロコロ変わる
6:相手の予定よりも自分の予定を優先する
こうした心理の原因をひと言で表現すると、
コンプレックス(劣等感)です。
否定されるかもしれないので、人の話を聞かない
バカにされなくないので相手をバカにする
焦りから感情をコントルールできない
恐怖心があるので先に相手を攻撃する
結果を急ぐので考えが変わる
相手を低めることで自分をあげる
ワンマン社長も不安なのです。そして、ワンマン社長に劣等感を植え付けた誰かがいるのです。ワンマン社長も劣等感と戦っているのです。
それを理解することが、あなたが変わる第一歩となります。
役員として、俯瞰して会社を見る
ここまでご理解をいただいた上で、経営者としての立場から、ワンマン社長がやっていることは間違いなのか?社員が仕事をしやすい環境にした時、あなたの会社の社員はサボらずに仕事をして、利益を出すように全力を尽くすでしょうか?
社員は自分の都合で話をします。これは普通のことです。しかし、役員であるあなたは、一歩上から会社全体と俯瞰しておく必要があります。なぜなら、ワンマン社長ほど、自分の考えに同調して欲しいし、できれば、自分の代わりに社員を叱ってくれる管理職を歓迎します。
もし、あなたが社員の代弁者になるなら、そんな話は聞きたくないと思って当然です。
あなたの意見と取り入れて、本当に利益が出るのか?
実際、ワンマン社長で利益を出している会社は多いし、社員の話を聞く社長は意思決定がブレるので、危険だと思うこともしばしばあります。
決定は社長
責任も社長
あなたは、あなたの会社をもっとよくできるのか?
社長ではなく、自分に問う。雰囲気をよくはできるが、利益はわからないでは経営とは言えません。
自分が変われば、相手も変わる(かもしれない)
ワンマン社長との付き合い方を質問されているのに、あなた自身を自問するような投げかけをしています。それは、あなたが変わることで社長にも変化があるかもしれないからです。
あなたがこれからどう行動するのかは、
1:クビ覚悟で本音を言う
2:今のまま社員をなだめながら時間を過ごす
ということです。
本音を言う場合、最も大切なことは、社長への信頼感です。あなたが社長を信頼していなければ、社長もあなたを信頼できません。
社長が変わってくれれば、私も変わりますというのは無理。
社員の代弁者として、社長を悪者にして、理解のある上司を装っているなら、あなたの姿勢を、社長は見破っています。
さて、どうしますか?
組織における成果とは?
中小企業の役員となっているあなたが自覚することは、中小企業の最大の目的は利益を出すと言うことです。
中小企業のほとんどはオーナー企業です。オーナーは、企業と運命と共にするのです。リターンも大きいかもしれませんが、リスクも大きいのです。
部長して成果を出している間は悩まなかったことを役員になってから考えるようになったと言う話をされることがあります。
組織には「ピーターの法則」と呼ばれる壁があります。
1:能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平(ひら)構成員は、無能な中間管理職になる。
2:時が経つにつれて、人間はみな出世していく。無能な平構成員は、そのまま平構成員の地位に落ち着く。また、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は、無能な人間で埋め尽くされる。
3:その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間によって遂行される。
部長として有能だったあなたは有能な役員になるのか、無能な役員になるのかの瀬戸際です。
あなたの部下を見てください。課長して有能だと思った人を次長にしても同じ仕事をしていて、部長には昇格させられない人はいませんか?こうした部下をあなたはどのように育成して行くのか?
同じように社長は、あなたを有能な役員になれるかどうかと見ているもかもしれません。
会社は
・売る
・作る
・サービスをする
のどれかで傑出すれば利益を出すことができます。その先に職場環境の整備があります。
あなたは、どの部分で抜け出すか?
それがないから、社長はカリカリしているのかもしれません。
ここまでの話で、説教くさく感じたり、責任を負わされた気になっているかもしれません。しかし、事実として、会社が役員であるあなたを雇用保険に加入させていないとしたら、あなたは法的にも経営者として見なされ、失業保険の対象とはなりません。
すでに、ワンマン社長との付き合いに、あなたのビジネスマン人生がかかっているとしたら、あなたが進む道は、あなたが決めるべきタイミングにきているのかもしれません。
中小企業の役員に求められることがあるとしたら、社員の不満を社長に話すことではなく、不満を言っている社員ですら、やる気にさせるように、あなた自身が行動をすることだと思います。
まとめ
この記事では、ワンマン社長の特徴と付き合い方についてお話をしてきました。もしかしたら、あなたが期待している話ではなかったかもしれません。
もちろん、人格に問題がある社長には黙って従うか、会社を辞めるかという選択肢もあります。
しかし、ワンマン社長を変えることは不可能です。変えることができるとしたら、あなたがワンマン社長への理解を変えることが第一歩となります。