「成功者はきれいごとを言っている」
コンサルタントをしていて、成功している社長と話をしているとそんな風に感じることがあります。
世間で話されたり、信じられているリーダーシップの多くは、美しいけれど、盲信すれば社長が自分を追い込むことになっていまいます。
成功者は意図してきれいごとを言っているのではありません。成功者という立場でインタビューを受けたり、本を出版した時、「本音」を言えないのです。
当たり前ですよね?
世の中のほとんどは従業員です。本を読み、ネットサーフィンをして、批判をする人の多くは従業員の立場です。社長の本音と従業員の思惑は違います。
社員が幸せになる会社を作ることは大切です。そうして欲しいと思います。しかし、社長が経営に悩んだら、きれいごとのリーダーシップではなく、自分が信じるリーダーシップを発揮すればいいと思います。
この記事では、私見ではありますが、社長のリーダーシップに関する10の間違いについてお話ししたいと思います。
目次
リーダーシップの天国と地獄
「夢に日付を」
これはワタミの合言葉です。
〜夢は夢のままで終わらせてはいけない。
夢は実現させるためにある。
皆、時間が経つにつれて「出来ない言い訳」ばかり考えるようになる。
それじゃ、あまりにも悲しい。
夢に日付を入れよう。
いつまでに達成させる、と心に強く決めよう。
「今」と「夢」の間を明らかにしよう。
そうすれば、今日からやらなくちゃいけないことが見えてくる。
それと、ひとつずつ、ひとつずつ、確実にクリアして行こう。
あきらめなければ、どんなことだって叶ふ〜
「前略…。」-青年社長・渡邉美樹が贈る30通の返信 渡邉 美樹
経営者や起業家なら共感できる部分が多いのではないかと思います。これは18年前に出版された本の冒頭の引用ですが、成功哲学の本質を突いているし、仕事をする上で大切なことを語っていると思います。
実際、当時は経営の手本として、多くの人の尊敬を集めました。
しかし、悲劇的な労災が起こった時、
というツイートは、批判に晒されました。
また、渡邉氏は以前テレビで「無理を続ければ、それは最終的に無理ではなくなる。無理をして自分自身を追い込むことで、結果的に成長できる」とも語っています。無理の程度は問題ですが(ここは大問題)、言葉そのものは間違いとは思えません。渡邊氏を取り巻く環境の変化が、同じ発言を天国にも地獄にも導いているのです。
また、参院予算委員会の公聴会で、公述人として過労死防止を訴えた過労死遺族に「お話を聞いていると、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえる」と発言、遺族側が16日、渡辺氏と面会して抗議し発言の撤回を求めた。同氏は「不適切だった」と謝罪することになりました。
「仕事で成果を出すことが幸せ」という考え方は否定するものではありません。一方で、自分の夢を会社の夢として社員に押し付けるリーダーシップにも問題があります。
ひとつ言えることは、人の評価は状況によって変化するということです。合わせて、どんな変化の中でも社長は会社を継続させていかなければならないということです。
こうした天国と地獄の転落物語を見た時、経営者は自分らしいリーダーシップについて考える必要があります。特に中小企業の社長は、個人補償を含め、会社と一心同体です。万が一のピンチに陥った時に、会社を守り、社員の雇用を守るためには、結果論のリーダーシップに縛られる必要はありません。
社長のリーダーシップとは?
社長のリーダーシップとは何かを考える時に、社長がリーダーシップを発揮する目的を明確にしなければなりません。
社長のリーダーシップの目的は、会社を継続させ、儲かる会社にするということです。
社員を幸せにすることが目的ではありません。それは、もう買った結果による副産物であるし、必要十分条件ではありません。リーダーシップとは手段です。
儲かる会社にするためには、社員を幸せにする
社員が幸せになれば儲かる会社になる
これは必ずしも成立しません。
儲かる会社にするためには、社員に成果の出る仕事をしてもらう
社員に成果の出る仕事をしてもらうと会社が儲かる
これは成立します。
社長のリーダーシップとは、儲かる会社にするために発揮するべきものです。そのためには、社員に成果の出る仕事をしてもらう必要があるのです。
「社長のリーダーシップ=社員に成果の出る仕事をしてもらう」
では、ここからは正解でもあるのですが、間違いでもあると思うリーダーシップについてお話しします。
社長のリーダーシップ10の間違い
間違い1:社長は人間力を高める
人間力がある社長は、儲かる会社を経営できるか?
「社長は人間力がないといけない。」という話があります。
人間力がないと評価されている社長でも、儲かる会社を経営している社長はいます。人間力は儲かる会社にする必要十分条件ではないのです。
人間力とは何か?
崇高な人物による逸話だけが人間力ではありません。
稲盛和夫氏は著書「生き方」の中で、この世に生まれた理由を問われた時、
生まれた時よりも少しでもましな人間になる、すなわちわずかなりとも美しく崇高な魂を死んで行くためだと答えます。
と記しています。
あなたが崇高な人物でなくても構いません。社員を怒鳴りつけてしまっても、反省し、次は違うコミュニケーションを取ろうと思うなら、あなたには人間力が備わっていると言えます。
多くの人間力とは後からの話です。
「自分は完璧だ。」と思わない限り、あなたが今よりもよりよくあろうと思う限り、あなたには人間力がある人です。
間違い2:社員の話をよく聞く
社員の話をよく聞けば儲かる会社になる。
これも必ずしも成立する話ではありません。
人は話を聞いてほしい動物です。しかし、その話は会社を経営して行く上で、有益なものだとは限りません。
自分の成果を出すことができない理由を他人に向ける人もいます。原因を自分に見出さない限り、状況の変化はありません。
また、社長の時間の貴重さを自覚できない社員もいます。社長は、日々様々な経営判断に追われています。そんな時に、ごく個人的な話で時間を浪費することは建設的ではありません。
とは言え、社員と話をするなと言っているのではありません。
ストライプインターナショナルの石川社長は、店舗視察を欠かしません。店舗のスタッフや顧客の話を聞きます。
その目的は、リサーチです。
店舗視察によって店舗の課題と同時に、全社の仕組みの課題が見つかる。その意味で現場は「宝の山」だと思っている。だからこそ、うまくいっていても必ず反省することが大切だ、と私は考えている。
社長はカウンセラーではありません。社員の話を聞く目的は、課題を発見するためです。
間違い3:夢を語る
社長が夢を語れば儲かる会社になる。
これも成立しません。
夢を語っても、それが本当の夢物語なら社員は信用しません。また、夢が社長の夢でしかないなら、社員には関係がないのです。
夢は、実現可能なものを語ること、または社長の本気度を表現しなければなりません。
しかし、社長の夢と社員が見ている現実のギャップが大きいほど、企業はブラック化していきます。
夢は社員を巻き込む夢であることが肝心です。
マズローの欲求段階説でお話ししているように、人間の欲求には5つの段階があります。そこには、他人への視点はありません。
社員を社長の夢に巻き込むためには、視点の抽象度を上げる必要があるのです。
例えば、こんな話です。
100人の人がそれぞれ自分の幸せを考える社会
100人の人がぞれぞれに自分と自分以外の99人の幸せを考える社会
どちらの幸せ度合いが大きいか?
誰でも後者だとわかります。
夢に巻き込むとは、自分以外誰かを幸せにするという動機付けを行うということです。
間違い4:チームワークが大切だ
チームワークがいい会社は儲かる会社になる。
これも成立していません。
仲のいいメンバーのスポーツチームが必ずしも勝つとは限りません。
ラグビーを例に考えてみましょう。
ラグビーは、前にボールを投げずに前に進む競技です。また、倒れた選手はボールを放さないといけません。
では、相手のタックルをされて倒れた選手があなたの足元にいます。相手選手も密集しています。ボールを受け取るためには、あなたは味方の選手の顔を踏まなければいけません。さて、どうしますか?
神戸製鋼ラグビー部の全盛期を率いた大西一平氏は「戦闘集団の人間学」の中で、「踏んで進む」と言っています。これこそチームワークなのです。
チームワークとは、勝つという目的を共有するチームで成立します。会社を単に仲のいいだけの弱者の集団にしてはいけません。
間違い5:社員の幸せを優先する
社員が幸せな会社は儲かる会社になる。
これも成立していません。
幸せのあり方は多様化しています。
仕事はそこそこで家庭を大事にする社員も増えています。男性の育児休暇も普通になりつつあります。
そうした世の中で、仕事で成果を上げることが幸せにつながらないケースもあります。
長期の有給休暇を取らせてもらうことで幸せを感じる社員もいるのです。
社長が考える幸せが、社員が考える幸せではないこともあります。
そもそも幸せとは、人にしてもらうのではなく、自分でなるものです。いえ、感じるものです。
間違い6:社員の合意を取る
社員が合意する会社は儲かる会社になる。
これも成立しません。
ある大手企業が商談に来たことがあります。
会社の規模は私の会社がはるかに小さいですが、発注量が多い時期だったので、役員、部長、課長、担当(主任)の4人でいらっしゃいました。
話をしているのは、主に役員(一番えらいので)、部長少々、課長挨拶程度、担当と実務の話。
ということで、大人数で訪問していただいたことは誠意と受け取りますが、部長と課長は、実務のことを知らない役員の発言を心配してやって来たようにしか思えません。
しかも、前の挨拶回りが伸びたとかで、40分の遅刻でした(連絡はありましたが)。
人数が多いということは、意味のない人も増えるということです。会議も同様で、人数が多ければ発言しない人も出て来ますし、発言しない人が合意しているとは限りません。
また、意見のない社員もいます。
仕事は関わる人を最小限にして、合意を取るのではなく、方針を伝えればいいのです。
間違い7:権限を委譲する
権限を委譲すれば会社は儲かる会社になる。
これも成立しません。
権限を欲しい社員もいれば、言われた仕事をしたい社員もいるのです。権限を委譲されても困る社員もいるのです。
社長が評価している社員が現場での評判が悪いことも少なくありません。そんな時は、「社長は贔屓している」と言われかねません。
権限を委譲する管理職は、公募によって立候補させればいいのです。そうすることで、不公平感は無くなります。
間違い8:社員を自由にさせたほうがいい
社員を自由にさせると、会社は儲かる会社になる。
これも成立しません。
確かに、IT企業などで自由な社風に見える企業で業績を伸ばしている企業があります。
一方で、ブラック企業と言われている会社の多くは長時間労働に加えて、厳しい管理をしています。
マンション販売のM社は、営業社員にGPSを持たせて、課長は1日中管理(監視)をしています。商談中はトイレに行くと席を外し、課長に電話を入れ、商談の経過と指示を仰ぎます。
驚くべき顧客無視ですが、この会社が業績を上げていることも事実です。
さすがにこれはやりすぎですが、仕事のやり方がわからない社員もいます。管理とは、正しい手順を教えるためのものです。
また、管理をしないと公平な評価ができません。公平な評価がないまま給料や役職を決めると社員に不満が大きくなります。
自由とは責任が伴うことを社員に理解してもらうことが大切です。
間違い9:インセンティブでやる気を出させる
社員にインセンティブを出せば、会社は儲かる会社になる。
これも成立しません。
お金で仕事をする人は、お金につられて会社を移ってしまいます。インセンティブを得た社員は、自己拡大を起こし、オフィス部門の社員に横柄になります。場合によっては、「会社は自分が支えている」と社長にすらプレッシャーをかけます。
一方、営業などでインセンティブが出ない社員はやる気を出しません。
お金の報酬は長くは続来ません。人間、お金を得るともっと欲しいと欲求が大きくなります。
会社の状態によりますが、給料は業界水準よりも少し高く、チームで目標を設定し、3ヶ月ごとに報酬を与えることでやる気を維持することができます。
間違い10:社員を見捨てない
社員を見捨てなければ、会社は儲かる会社になる。
これも成立しません。
仕事を一生懸命にやらない社員はどこにでもいます。場合により、害になっている社員もいます。
フリーライダーと呼ばれる仕事をしない社員がいることで、やる気のある社員にも影響が出ます。
雇用契約があるので解雇することは簡単ではありません。しかし、社員を見捨てない英雄的なリーダーではなく、会社全体を考える必要があります。
仕事をしない社員への対策は
1:面談で成果について話す(この時、評価は仕事のみ、人格批判をしてはいけません)
2:仕事ぶりに不満があることを率直に話す
3: 目標を設定し、期限を設ける
4:達成度合いにより、給料の減額と降格、多部署への移動を提案する
達成して仕事をするようになればめでたし。
やる気のない社員ばかりではなく、やる気を出さない理由のある社員もいます。そうした場合、断固として社長の方針を伝えることで、社員を戦力にすることもできるのです。
まとめ
この記事では、カリスマ的なリーダーの転落ストーリーを紹介し、世間の評価に振り回されない社長のリーダーシップについてお話をして来ました。
リーダーシップは手段です。社長の目的は会社を存続発展させることです。
目的を見失わずにリーダーシップを発揮してください。